100年前の輝きをもう一度|1915年製 SINGER 66 レッドアイのレストア記録

アンティークミシン

SINGER 66 アンティークミシン をレストアしました。
丁寧な整備と再塗装で、美しく動く姿を取り戻しています。

こんにちは、フランチェスカです。
今回ご紹介するのは、1915年にアメリカ・エリザベス工場で製造された SINGER 66“レッドアイ”その名のとおり、赤を基調にした装飾が印象的なSINGERの代表的アンティークミシンです。当時は家庭用ミシンとしては最高級のモデルとされ、いまなお世界中のコレクターに愛されています。

100年以上の時を経たミシンが、再び美しく、そして確かに動き出しました。
今回は、そのレストアの記録と、SINGER 66が持つ魅力を少しご紹介したいと思います。

SINGER 66 レッドアイ アンティークミシン 全体写真

✴︎ SINGER 66とは

1910年代、SINGER社が「家庭に最高の縫製を届ける」ことを目指して開発したモデルが、SINGER 66です。鋳鉄製の重厚なボディと、精密に作られた内部構造により、安定した縫製を実現しました。

SINGER 66 取扱説明書 Singer sewing machine No.66 Instructions

中でもこの“レッドアイ”は、赤と金を基調にした装飾が特徴的で、アメリカ本国でも高級機として知られていました。
その華やかさから、当時の広告にも頻繁に登場し、女性たちの憧れの存在だったといわれています。

1915年製 SINGER 66 レストア後の外観

100年という時間を経てもなお、その意匠は色褪せず、光を受けるたびに柔らかな艶を放ちます。
まるで、静かに眠っていた時が再び動き出したように__。

SINGER 66 レッドアイ アンティークミシン 斜めからの写真

✴︎ レストアを始める前に

このSINGER 66は、長い年月を経て塗装の艶を失い、デカールもほとんど消えかけていました。
それでも、内部機構はしっかりとした骨格を保っており、再生の可能性を感じさせてくれる一台でした。
このミシンに再び命を吹き込むべく、オーバーホールから再塗装、デカール復元まで、丁寧な工程を重ねました。

次の章では、その過程と仕上がりについて少し詳しくご紹介します。

✴︎ SINGER 66 アンティークミシンのレストア工程

再び、美しく動くミシンへ。
長い眠りから目覚めたSINGER 66を、一つひとつの工程を重ねながら丁寧に蘇らせました。

分解・オーバーホール工程

全分解による内部清掃と調整を実施し、摩耗した部品は現行互換品に交換。
100年前の設計を活かしつつ、今なお実用可能な精度へと調整しています。

塗装とデカールの再生

古い塗装をすべて剥がし、下地から丁寧に整えるところからレストアは始まりました。
鋳鉄の質感を生かしながら、当時の色味に近い深いブラックで再塗装。
さらに、何層にもクリアコーティングを重ねることで、光を受けたときの艶と奥行きを取り戻しました。

SINGER 66 レッドアイ デカール装飾のアップ

装飾のデカールは当時の「レッドアイ」パターンを忠実に復元。
消えかけていた模様が息を吹き返し、黒いボディの上で再び輝きを放つ姿は、何度見ても胸が高鳴ります。

1915年製 SINGER 66 デカールのレストア後

最終調整

内部のパーツも分解・オーバーホールし、古いグリスを落としたあと、
軸受けやギア、シャトルレースなどの摩耗をひとつずつ確認しながら注油・調整を行いました。
静かにペダルを踏むと、針が滑らかに上下し、100年前の機構とは思えないほど安定した動きを見せます。

 SINGER 66 レッドアイ アンティークミシン天板を広げた正面写真
SINGER 66 レッドアイ アンティークミシ後ろから撮った写真
Info.

今回ご紹介の Singer 66 アンティーク足踏みミシンは、現在販売中です。

✴︎ 豪華な三段引き出しとキャビネット

ミシンを支えるキャビネットには、豪華なレリーフ装飾の三段引き出しが備えられています。
これは、当時の日本では販売されなかったアメリカ市場向けの高級仕様です。

彫刻の陰影が光を受けるたび、100年前の職人の美意識が感じられます。
木部は各パーツを分解し、突き板の修復や塗装の再仕上げを行い、深みのある艶を取り戻しました。

SINGER 66 ミシン台 木目と引き出しのディテール
SINGER 66 ミシン台

✴︎ 鉄脚の魅力とレストア工程

錆を落とした後に再ペイントし、アンティークゴールドで“SINGER”ロゴを復元。
装飾と実用性の調和が取れた佇まいは、空間そのものを引き締めます。

鉄脚の再塗装とロゴの復元

鉄脚全体を分解し、錆止め下処理後に重ね塗りで再ペイント。
仕上げにロゴへ金彩を施し、さらに、表面はクリアコートで深みを持たせ、輝きを長く保つ仕様に。

アンティークミシン 鉄脚部のSINGERロゴ

木製ピットマン棒の静かな動き

ペダルと駆動軸をつなぐピットマン棒(Pitman rod)は当時の木製タイプ
金属製へと移行する以前の、初期モデルならではの仕様です。
踏み心地がやわらかく、わずかに響く木の感触が100年前の温もりを伝えてくれます。

ピットマンボウ 木製パーツ 1910年代 SINGER 66
ベルトホィールと木製ピットマン  1910年代 SINGER 66

✴︎ 実用機としての性能

このSINGER 66は、水平釜仕様で現行シンガーミシンのボビン(上下に膨らみのあるタイプ)に対応しています。返し縫い機能はありませんが、布を回して縫う伝統的なスタイルで、しっかりとした縫製が可能です。

推奨針糸と試し縫い

🧵推奨針糸番手(参考)
・針:♯9〜♯16
・糸:90番〜20番

🧵試し縫い例
・シーチング:針HA×1 #11 × 糸60番
・ツイル:針HA×1DE #16 × 糸20番
・レザー:針HA×1LL #16 × 糸20番
・デニム:針HA×1DE #16 × 糸20番

布地に応じて針と糸を選べば、作品ごとに最適な仕上がりを楽しめます。

水平釜部分とボビンケース SINGER 66 試し縫い デニム生地、レザー生地

アンティークながら、実際に洋服づくりにも使える頼もしい一台です。

SINGER 66 アンティークミシン のアタッチメント Sewing Accessory

取扱説明書、そして基本操作を紹介した動画もご用意しています。

✴︎ SINGER 66が教えてくれること

レストアの過程でいつも感じるのは、
100年前の職人たちが、このミシンをどれほど丁寧に作っていたかということです。
精密な部品のかみ合わせ、スムーズな駆動、そして何より「美しくあること」へのこだわり。

SINGER 66は、単なる道具ではなく、
“暮らしの中にある芸術品”のような存在だったのだと思います。

現代の便利なミシンにはない、静かな重みと存在感。
光の加減や見る角度によって、黒い塗装の中に映り込む景色が変わる――
そんな時間を共有できることが、アンティークミシンのいちばんの魅力かもしれません。

SINGER 66 アンティークミシン 販売用ディスプレイ

今回ご紹介の Singer 66 アンティーク足踏みミシン は、現在販売中です。
詳細な整備内容や写真、価格については下記の販売ページにてご確認いただけます。 👉 販売ページはこちら

✴︎ おわりに

今回レストアを終えた1915年製 SINGER 66 “レッドアイ” は、当時の美しさと機能をできる限り忠実に取り戻した一台です。
深い艶をまとったボディと、静かに響く縫い音。
100年前の空気を纏いながら、今の暮らしの中でも確かな存在感を放っています。
このミシンが、また次の100年へと受け継がれていくことを願って。

 

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